忘れ得ぬことども

パーティゲーム「連狂歌」

 吉会芸術活動促進部主任代行さんのHPに、ちょっとしたゲームがあります。
 昔から「5つのW」という名前で知られているゲームの変形で、本来の形としては、
 「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「何を(What)」「どうした」
 という5つの要素からなる文を、場に集まった人がひとつずつ書きます。本来記事文の必須要素としての5W1H、というのもありましたね)のうち「なぜ(Why)」は欠けていますので、本当は「4つのW」なのですが、語呂の良さでゲームの名前がつけられたものと見えます。
 例えば3人のプレイヤーが、
 ──「昨日」「東京駅で」「うちの社長が」「靴を」「磨かせた」
 ──「午後3時」「サンシャインビルの水族館で」「オレの彼女が」「入場券を」「なくした」
 ──「1543年」「種子島で」「ポルトガル人が」「鉄砲を」「持ち込んだ」
 とそれぞれ書いたとします。
 その後、それぞれの文章を要素ごとに切り離します。つまり、各自5つの紙片を持つことになり、それを要素ごとに混ぜ合わせ、シャッフルして、裏返しにし、1枚ずつ取ってゆきます。
 すると、
 ──「昨日」「種子島で」「うちの社長が」「入場券を」「磨かせた」
 というようなぶっとんだ文章ができて大笑いになる、というゲームであります。
 が、これがなかなかうまくゆきません。
 「いつ」「どこで」「誰が」まではほぼ問題なくまとまるのですが、「何を」「どうした」のところでシンタックス(構文規則)が崩れることが多いのです。
 「どうした」の部分は当然ながら他動詞しか入らないはずなのですが、例えば「歩いた」のような自動詞でも、「銀座を歩いた」というような形でこの構文に入れることができます。しかし、「テレビを歩いた」となってしまうとまるっきり意味不明になります。実際にやってみると、こういう、シンタックスの崩れた文章がしょっちゅう現れます。
 プレイヤーの人数によっては、ひとりずつに文章までは作らせず、それぞれの要素だけ書かせるというようなゲームの仕方をする場合もあり、そうなるとまったく惨憺たるものになりがちです。「どうした」の部分に、目的語を書いてしまう(「ため息をついた」とか「足を洗った」とか)ことが多くなり、しかも他動詞に限るということを理解してプレイする人はそう多くありません。そのため、「何を」「どうした」のつながり具合はめちゃくちゃになってしまうのです。
 この欠点を補うべく、その後
 「いつ」「どこで」「誰と」「誰が」「何をした」
 というような形に改められたこともありましたが、「誰と誰が」のところが意外と面白くならないものです。同一人物の名前になってしまったりする場合もあり、そうなれば可笑しいのではないかと思われそうですが、実際にやってみるとさほど可笑しくもありません。つじつまの合わない文章であるという違和感の方が先に立ってしまって、笑えないのです。

 主任代行さんのところでは、これを
 「誰が」「どこで」「何をしていると」「誰に」「何をされた」
 という形に変形していました。あらかじめ多数の要素を用意しておいて、JAVAスクリプトを用いてランダムに組み合わせるという仕掛けになっているようです。そのページを呼び出すごとに違う文章が現れるというわけ。ちょっとややこしいようですが、それぞれの要素のシンタックスがよりはっきりしているので、この形にすれば、実際に何人もで遊んでも面白いのではないかと思います。

 さてここで、形は似ているけれども趣きのだいぶ違うゲームをご紹介しましょう。私がはじめて入った合唱団が、強化合宿の時に必ずやっていたゲーム(仲間内では「儀式」と呼んでいた)で、その後私はあちこちで普及して廻っています。ゲームの名前は特にありません。最初の合唱団では「川柳」と称していましたが、形からすると川柳ではなくて狂歌と言うべきですが、狂歌そのものでもなく、強いて言えば「連狂歌」でしょうか。
 人数分の紙と鉛筆を用意します。紙を各人に配り、まずはそれを縦5つ折りにします。5つ折りというのは難しそうですが、最初に2つ折りにする時に、折りしろを2:1にすればわりと簡単に折れます。
 間違えないように、5つに折ったそれぞれの部分の上部に、右から「5、7、5、7、7」と書きつけておきます。
 その上で、いちばん右の「5」と書いた部分に、なんでもいいから5文字の言葉を書きます。「たらちねの」でも「腹減った」でも「ああ無情」でも「吾輩は」でもなんでも結構。
 書いたら、その紙を隣の人(右でも左でもいいが統一する)に渡します。渡された人は、そこに書いてある5文字に続けて、7文字を書きます。つまり、最初の5文字が狂歌の第1句、次の7文字は第2句ということになるわけです。
 第2句を書いたら、第1句が見えないようにうしろに折りこんで(ここが肝心)、さらに隣に廻します。渡された人は、第2句だけを見て、第3句をつなげます。以下、次の人は第3句だけを見て第4句をつなげ、その次は第4句だけを見て結句をつけてできあがりです。一ラウンドのうちに、各プレイヤーが必ず第1句から第5句までを一回ずつ書くことになり、最終的には人数分の狂歌が作られます。
 お互い、すぐ前の句しか見えないので、途中からとんでもない展開になり、大笑いとなるのです。逆に意外にもすんなりと筋が通ってしまう場合もあり、それはそれで妙に感動します。過去の作品で、もっとも見事だったと私が思う一例。
 ──お釈迦さま/カールがセクシー/目もセクシー/背中もセクシー/おなかもセクシー
 ほとんどロイヤルストレートフラッシュのような統一感で、長いことやっているとこんなのも出てくるのです。繰り返して言いますが各プレイヤーはすぐ前の句しか見ていません。
 普通はもっと不条理な笑いとなります。最近の作品例。
 ──うす暗い/夜ふけの山で/とつぜんに/やってみましょう/リンボーダンス
 馴れてくると、参加している人名を織り込むようになってきて、そうなると参加していない人にはわかりませんが、その場の笑いはさらにヒートアップします。墓穴を掘る人も出てきたりして。
 ──柴田さん/今夜のあなたは/ひと味ちがう/コアラのマーチ/鼻で食べてる
 コアラのマーチというのはお馴染みのお菓子。その場に出ていたとおぼしい。これだけでも可笑しさはあるのですが、最後の「鼻で食べてる」とつけたのが、冒頭に出てきている「柴田さん」本人だったから大爆笑。
 「うけそうな落ちを考えてああしたんだけど、まさか自分の名前が出ていたとは……」
 と、柴田さん憮然。もっとも普通は、誰がどこを書いたというのはなかなかわかりません。このケースでは墓穴を掘った柴田さんが告白したのでした。
 すでに字余りなどが出てきていますが、もっと悪馴れしてくると、もはや五七五七七などどこへやら、ほとんど散文詩みたいなものになったりしますが、これは上級編と言うべきでしょう。
 合宿などの機会があったらお試しください。

 このゲームを少し手直しして、結婚式の二次会のゲームに仕立てたこともあります。
 二次会でビンゴなどをすることが多いようですが、あちこちでやっているのでいい加減飽きてしまいます。結婚式の二次会というのは、いろんな系統の人が一堂に会するので、どうしてもビンゴのような無難なゲームでお茶を濁したくなるものです。下手にあくの強いゲームをするとかえってひんしゅくを買ったりするので、幹事さんとしては頭の痛いところ。
 そこで、この「連狂歌」ゲームを採り入れてみたのです。
 もっとも、会場でみんなに環になって貰って、隣の人に廻してゆくというのは大変ですから、受付の時にあらかじめ「2」から「5」までの番号札を渡しておきました。「1」がない理由はすぐあとで述べます。
 第1句というのは案外書きずらいもので、そこで停滞すると困りますので、ここだけは幹事側で、めでたそうな言葉をあらかじめ書き込んでおき、第2句目からつなげて貰いました。「2」の番号札を持っている人を呼び集め、第1句を書き込んだ紙(いつもより大判の紙を使いました)とサインペンを渡して、書いてもらったのです。
 そのあと、書いたものを一旦回収して、幹事側で第1句を隠し、次に「3」の番号札を持った人を集めて、ランダムに渡しました。
 こういう調子で第5句までつなげたわけです。一首に4人関わるわけですので、40人のパーティなら10首できあがります。割り切れなかったところは幹事が補いました。
 環になって廻してゆくよりも、さらに匿名性が高くなるせいか、中にはとんでもなくお下劣な言葉を書き込んでいるようなのもあり、幹事が詠み上げるたびに会場は笑いに包まれたのでした。
 それらの「作品」は最後にきれいにファイルして新郎新婦に渡しました。なかなかよい記念になったと思われ、その時の夫婦はまだそのファイルを大切にとってあるそうです。
 余興に頭を悩ませている幹事さん、いかがでしょうか。

(2000.5.20.)

【後記】「MIC's Convenience」で大ヒットとなったwebゲーム「連狂歌」の濫觴です。この文章を書いてから約一ヶ月後、私のゲームデザイン、だーこさんのプログラミングにより、web版連狂歌がお目見えしました。以下は、お目見えの時の文章です。

※   ※   ※

 このたびいよいよ、「連狂歌」ゲームをアップいたしました。
 ゲームについては、前に触れました。五七五七七の三十一文字を5つの句に分け、ひとりがひとつの句だけを書いて次のプレイヤーに廻す。次のプレイヤーはそれを見て続きの句を書き、前の句を隠してまた次に廻す……ということを繰り返して、抱腹絶倒なつながり具合を見て愉しむ、という、合宿のような場にふさわしいパーティゲームです。
 このゲーム、CGIを利用すればわりと簡単にwebゲーム化できるのではないかと思っていました。前の句を書いた人が誰なのかわからない方が面白いわけですから、まさにインターネット向きのゲームになるはずです。
 そんな話をチャットでしていたら、だーこちゃんが、CGIスクリプトを書いてみようと言ってくれました。現在だーこちゃんはプログラマーのお仕事をしているので、いわばプロであり、タダでお願いするのはなんだか心苦しいものがありましたが、簡単に書けるからということで快諾してくれたのです。
 ゲームの仕様を細かく話し、最終的な「見た目」をHTMLで作ってだーこちゃんに送りました。このHTMLファイルは、実際にCGIのテンプレートとして使って貰いましたので、このゲームのデザインは私の作品です(^o^)
 同じ人が続けて投稿できないようにしたり、5つの句が揃わないうちは覗けないようにしたり、普通の掲示板などとは違った部分があって、だーこちゃんも多少手間取ったところがあるようですが、このたびなんとか完成したものです。
 評判が良かったら、さらにヴァージョンアップして、フリーCGIとして配布することも考えられます。私の知る限り、こういうwebゲームはまだ存在していないはずです。webバナナと称する連想ゲームや、リレー小説などがわりと近いとも思えますが、散漫な印象は否めません。発案者の私としてはかなり自信を持っています。
 皆さんも、ぜひ楽しんでください。また、「ここはこうしたら?」みたいなご意見がございましたらだーこちゃんか私に伝えてくださればとてもありがたいです。
 なお、このゲーム、人名が出てきた方が面白いので、自分や他人の名前を詠み込むことはOKにしました。ただしもちろん、品のない罵詈雑言や誹謗中傷は遠慮してください。文字数が少ないのでさしたる罵詈雑言も出ないとは思いますが、「MIC死ね」なんてのはやめましょう。そう書かれてMICなる人物が傷つく傷つかないという問題ではなく、あまりに品がなくて見た人が不愉快になるからです。
 逆に、思いもよらず自分の名前が詠み込まれているのを発見しても、怒らないこと。名前が詠み込まれるのは、人気のある証拠ですから、むしろ喜ぶべきことでしょう。もしかすると発句に名前が詠み込まれたあと、3句、4句とだんだんとんでもない展開になってゆくかもしれませんが、例えば3句目を書いた人は、発句にあなたの名前があることなど知らないわけです。
 連歌も狂歌も、伝統のある文芸遊戯であり、何よりも粋(イキ)でなければならないと思います。露骨な悪口を書くのも野暮、自分の名前が詠まれたといって腹を立てるのも野暮。お互い野暮は言いっこなしということでゲームを楽しめればよいと思います。
 だーこちゃんとは先日のチャットでも、他の面白そうなwebゲームの可能性について話し合いました。私はCGIについては素人なので、かえって突拍子もないアイディアが湧いてくるかもしれず、今後もいろいろと実現して行けたらと考えております。

(2000.6.29.)

トップページに戻る
「商品倉庫」に戻る
「忘れ得ぬことども」目次に戻る