忘れ得ぬことども

文房具のモデルチェンジ

 文房具というものには、案外とこだわりを持っている人が多いのではないでしょうか。
 学校で使うノートの意匠を揃えたり、鉛筆を補充するときに前のと同じものを買ったり、というようなことは誰にでもあることなのではないかと思います。日常使うものですから、馴れたものが使い易いという事情が大きいのでしょう。
 必ずしも同じカテゴリーの中で最良の製品でなくとも、最初に使ったものに拘泥してしまうという場合もあるように思われます。最初に「これはいい」と思うと、なかなか変えづらいものです。
 私はことにそういう傾向が強いようで、そのため時には要らぬ苦労をしてしまったりすることもあります。

 高校を卒業する年の正月から、このホームページを開設する頃まで、かれこれ14年間ほど、私はほぼ欠かさずに日記をつけていました。現在はホームページが日記代わりみたいなものになっているのでつけていませんが、飽きっぽい私としてはよく続いたものだと思います。
 大学ノートなどに書く人もいるようですが、私はフォーマリストなところがあり、一応ちゃんとした「日記帳」として製造されたものを使いました。そうでなければ続かなかったかもしれません。
 文房具屋へ行くと、日記帳のコーナーというのがたいていあって、実に多種多彩な意匠の日記帳が並べられています。その中で私はごくごくシンプルなものを好みました。大きさはB6判で、200〜300ページほど、表紙には絵など描かれておらず、本文ページにも余計なロゴなどついていない、まるで愛想のない日記帳でしたが、そのシンプルさが私の好みでした。
 この営業日誌同様、私は個人的な日記もやたらと細かく長く書く癖がありましたので、最初から日付が印刷されているようなものは役に立ちません。300ページ近くある日記帳を、年に3冊くらいは使っていたようです。同じデザインで、表紙の色違いだけシリーズで出ていた日記帳だったので、毎回色を替えて、数年のうちに5冊10冊と並んでゆくのに、われながら美を感じたりしていました。

 ところが、何年か経つうちに、そのシリーズの日記帳が入手しづらくなりました。文房具屋へ行ってもなかなか見当たらないのです。あまりにシンプルすぎて人気がなかったのか、メーカーが製造を打ち切ってしまったようでした。日記帳などというものにはやりすたりがあるとは信じられない気がしたのですが、とにかくいつも買っていた店から姿を消し、他の店でも見かけなくなりました。
 それでも、私はあちこちの文房具屋を廻って、さらに数回、同じシリーズの日記帳を買い求めました。入手しづらくなっていることを実感していたので、見つけると3冊くらいまとめ買いするようになりました。
 しまいには、街を歩いていて文房具屋を見つけると、とにかく入って「愛しの日記帳」を探すようになりましたが、さらに数年うちには、まったく見当たらなくなりました。最終段階では、日記帳を探すために半日歩き廻ったような記憶もあります。
 ついに背に腹は代えられず、それまでのシリーズと違う日記帳を使わざるを得なくなってしまった時の曰く言いがたい敗北感といったらありませんでしたね。
 その後、次善のような形で別のシリーズを使うようになり、それにも愛着が湧くようになってきた頃には、またもや入手困難になる、という繰り返しでした。どうしてそうなるのか、私が使い易いと思う製品はよっぽどマイナー好みなものなのでしょうか。
 私は文具メーカーに声を大にして言いたいのですが、日記帳のようなものを数年でモデルチェンジするのはぜひやめていただきたいものです。10年20年と同じ規格の製品を出し続けて何が悪いのでしょう。

 なぜこんなことを思い出したかというと、似たようなことがあったからです。
 自分の作品はジャンル別にファイルしていますが、音楽劇関係のものは概してページ数が多く、他のジャンルと同じフォルダーを使っていたところ、その内容量のあまりの多さにフォルダーが壊れてしまいました。
 音楽劇作品は、作品ごとにひとつのフォルダーを使った方がよさそうだと思い、ファスナー付きのカードケースを買ってきて入れてみると、ちょうど好都合であることがわかりました。
 最初にそれを買い求めた店では、個数が足りなかったので、同じものを買おうと思って日を改めて他の店に出かけたのです。
 日記帳と違って、今回は何年も経っているわけではありません。当然どこの文房具屋でも同じ製品が置いてあるものと思いました。
 ところが、ないのです。
 類似の製品はあるのですが、同じものは見当たりません。池袋西武デパートの上のロフトという巨大な文具売り場に行ってもないようでした。
 これはいったいどうしたことでしょう。最初に買ったものは、製造中止となった最後の店頭品だったとでも言うのでしょうか。
 私ももう若い頃と違って、目当ての製品を求めて半日行脚する元気もありませんので、やむなくその類似品を買って帰りましたが、どうも業腹です。
 他の製品についても、何度も似たような経験をしているのですが、これって私だけでしょうか? 普通はそんなにこだわりを持ったりしないものなのか、皆さんはいかがでしょう?

(2002.6.14.)

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