忘れ得ぬことども

「アニソン・フラッシュ!」制作記

I

 カワイ出版からアニメソングの合唱編曲集を刊行する予定になっています。そのための編曲作業に1ヶ月近くかかり切っていました。
 楽譜を刊行する場合、どこかの合唱団に委嘱されて作曲なり編曲なりをおこない、その演奏の音源を持って版元に売り込むというパターンが多いのですが、今回は版元側からの企画で、従って初演の前に楽譜が出ることになります。そのため、締め切りが出版スケジュールにより制約されることになり、かなり集中して作業をしないと間に合わない状態だったのでした。

 アニメソングの合唱編曲は、すでにサニーサイドミュージックから、『アルプスの少女ハイジ――世界名作劇場アニメコレクション』混声版・女声版、それに男声合唱用の『アニメヒーロー・ヒロイン伝説』の全3冊を刊行していますし、当のカワイの『新リーダーシャッツ』という合唱曲選集にも「想い出がいっぱい」(アニメ「みゆき」のエンディングテーマ曲)を掲載しています。
 ところがこれらが、現在すでにことごとく入手不可能になっています。
 なんと言っても、サニーサイドミュージックという会社が潰れてしまったのが痛いところ。いろいろと奇抜な企画の楽譜を出していて面白い出版社だったのですが、売れ行きはイマイチだったようです。例えば「トライトーン」という個性的なアカペラヴォーカルグループのオリジナルアレンジ譜を続けて出していたものの、一般の合唱団で演奏するには少々難しすぎて、思ったほど売れなかったとか、そんな話が積み重なって、とうとう経営が立ちゆかなくなったのでした。
 それにしても関連した著作者たちにひとことの挨拶も無く潰れてしまったため、私もしばらくそのことを知りませんでした。ここ数年、『アニメヒーロー・ヒロイン伝説』に収録した、例えば「宇宙戦艦ヤマト」とか「銀河鉄道999」を歌いたいのだが楽譜が手に入らない、と私にメールなどで連絡してくる人が多く、ある時
 「版元のサニーサイドに直接連絡してみてはいかがでしょう?」
 と答えたところ、折り返し
 「連絡をとってみようとしたのですが、連絡先が全く不明です」
 と訴えてきました。それで不思議に思って、しばらく見ていなかったサニーサイドのホームページにアクセスしたら、つながらなくなっています。「連絡先不明」と言ってきた人は、グーグルなどのキャッシュに残っていたホームページから電話番号を拾い出してそこにかけてみたらしいのですが、それもつながらなかったそうです。サニーサイドは潰れたらしい、と私が遅ればせに気づいたのは、ようやくその時のことでした。
 ちなみに『アニメヒーロー・ヒロイン伝説』は、前にAmazonの中古でなんと8000円の値がついているのを見たことがあります。定価は税抜き1500円でしたから、驚くべき高値です。自分の書いたものにそんなプレミアムがついているというのは嬉しくもありますが、考えてみると8000円で売買されたところで私には一銭も入ってこないわけで、少々複雑な気分です。

 「想い出がいっぱい」も今は入手できません。なぜなら『新リーダーシャッツ』もすでに絶版だからです。
 そもそも『新リーダーシャッツ』は、70年代に編集された『リーダーシャッツ』という合唱曲選集が、いい加減古びてきたので、新しい感覚の曲を入れて再編集したものでした。しかし元の楽譜が20年以上流布していたのに較べ、『新』の寿命は短く、間もなく『リーダーシャッツ21』というさらに新しい選集に取って代わられました。
 なぜかというと、編曲ものの版権料が急騰したためです。『新』には私も、「想い出がいっぱい」の他、ビートルズの編曲ものを提供していましたし、カーペンターズの編曲ものなども載っていましたが、刊行後これらの洋楽の版権料がいきなり引き上げられました。楽譜の価格を非常識なほど高くしないとモトが取れないわけです。ビートルズの編曲など、需要は非常に多いのですが、上の理由で現在は事実上出版できなくなっています。
 そんなわけで残念ながら絶版となり、洋楽編曲ものを含まない『21』が更めて刊行されました。なお、私が出していたオールディーズの合唱編曲集『The Hit Parade』も、この時絶版となりました。それ以来、アメリカの出版業は実にあこぎであると私は思っています。

 私のアニメソング編曲集はかくして全滅したわけですが、それでも一度楽譜を出しておくと憶えていてくれる人も居たようです。カワイで新たにアニメソングの企画が出た時、編曲者として私に白羽の矢が立ったのも、担当者がサニーサイド本を知っていたからでした。
 「他の先生がたにもちょっと打診してみたんですが、皆さんアニソンをあんまりご存じないんですよ。その点MIC先生でしたら」
 と、なんだか見透かしたようなことを言われました。
 最近はアニメもそんなに見ていませんが、確かに私はアニヲタと呼ばれても仕方がないくらいアニメに夢中になっていました。しかしながら、なんとなくの印象ですが、アニヲタの名に価する作曲家は別に私だけではなく、他にも「濃い」人はいくらでも居ると思います。私の知り合いでもたちどころに数人思い浮かびます。
 とは言うものの、作曲家の中でも「合唱作家」に限ってみると、そんなに人材は居ないかもしれません。他の合唱作家をそんなに存じ上げているわけではありませんが、私より上の世代だとアニメにそんなに思い入れはなさそうですし、以前新作合唱曲の夕べみたいなイベントでご一緒した同世代あたりを見渡しても、アニメ話で盛り上がれそうな人は居なさそうでした。下の世代だと、例えば信長貴富くんなどアニメソングの編曲もあるようですが、ご本人がその筋のマニアと言えるかどうかはよく知りません。ある程度まとめての企画となると、まあ私くらいのものかなと納得せざるを得ませんでした。
 正直言ってかなり忙しい時期に持ち込まれた仕事であり、やや躊躇したのですが、そんな風な一種の自負があったり、好きなジャンルではあり、何よりも確実に刊行されるというのがありがたく、ついつい引き受けてしまった次第です。

 担当のM嬢は、自分でこんな企画を持ち出すだけに、これまたかなりのアニヲタで、2回ほど打ち合わせをしましたが、選曲とかスケジュール確認とかの事務的なことよりも、どちらかというとヲタ話で盛り上がった部分が大きかった気がします。出版社の応接室で、一応は一人前の作曲家と編集者が、アニメ話にうつつを抜かしているというのも、なかなか異様な光景だったことでしょう。
 まあ、ついついマニアックな話のほうへ流れがちだったのは、選曲にだいぶ苦労したためでもあります。
 今回大いに参考にさせて貰った、アニメソングの歌詞を載せているサイトによると、アニメソングというのはそこに掲載しているだけで実に1万2000曲を超えているそうです。あまりと言えば多すぎるようでもありますが、オープニング、エンディング、劇中歌を全部数えるとそのくらいになってしまうのでしょう。
 特に最近のアニメは、オープニングやエンディングを1クールごとにころころ変えるものが多いので、余計に数が増えてしまいます。なぜ変えるかというと、アーティストとのタイアップで売るというスタイルが定着したからで、要するにCDや着メロなどの回転を良くするための商法です。この商法の元祖は「ハイスクール!奇面組」あたりだと思います。当時一世を風靡していたおニャン子クラブの部内ユニット、うしろ指さされ組の新曲が出るとすぐにオープニングかエンディングが差し替えられるというシステムになっていました。
 その時は放送局であったフジテレビの意志が働いたものと思われますが、この頃は制作会社が最初からタイアップを決め、楽曲の売り上げでアニメの制作費を回収するのがあたりまえになっているようです。それはそれで生き残りのためには仕方がないとは思いますが、印象に残るアニメソングというものが激減する理由にもなっています。私などが子供の頃のアニメソングといえば、タイトルと密着していて、アニメのタイトルを言えばすぐさまメロディーや歌詞が浮かんでくるほどですが、今の子供たちはそんな想い出の曲を持てるのでしょうか。

 ともかく、1万2000曲以上の中から選曲するのだから大変です。今回、なんと混声版・女声版・男声版の3冊同時刊行ということになりそうなのですが、載せられる曲数はいいところ十数曲でしょう。なんらかのテーマを立てないことには収拾がつきません。
 ところが、テーマを立ててしまうと、そこから外れた曲で良いものが目立って仕方がないのです。そちらを入れようとしてテーマを立て直すと、今度は他の名曲が外れてしまいます。
 こういう事態を解決する方法がひとつだけあります。それは、シリーズにして、第2集、第3集……と毎年刊行するという手です。シリーズ化が決まっていれば、今回はSFものでまとめ、次回はスポ根、その次はギャグもの、などと計画することができます。あるいは1960年代以前、70年代、80年代、etc.……というような分け方もできます。
 実際、最初の打ち合わせの結論はそんな形となり、M嬢がこれで会議にかけてみると言ってその場は別れました。私としても、向こう何年も新刊が確実に出続けることになるわけですから、願ったりかなったりというものです。
 しかし、さすがに編集会議はそう甘くはありませんでした。まだ1冊も出ていないものをシリーズ化するなどというのは、それは確かに企業としては冒険的すぎます。サニーサイドミュージックはそういう冒険をしすぎて潰れたのではありますまいか。
 2回目の打ち合わせはやや低調でしたが、ともかくいくつかを選び、これでやってみようということになりました。結果的には、やはりかなり古いアニメの主題歌ばかりになったようです。とりあえず1回目としては、やむを得ません。これが好評をもって迎えられ、第2集の刊行を待ち望む声がカワイに続々寄せられるようになれば、次の時にはもう少し新しいアニメソングも入れたいと思っています。

 『世界名作劇場』の時とは異なり、各声種で曲を統一するということはしませんでした。実は統一したほうが私の作業量が少なくて済むので(ピアノ伴奏をそのままにして、合唱部分だけ差し替えれば良いし、パソコン作譜時代の今ではコピペという強い武器があるため)、このところの多忙なみぎり、できれば同じ曲にしたかったのですが、残念ながら却下。ただし1曲だけ、カワイからの要望で共通曲を入れました。それはなんと

 ♪このごろはやりの女の子〜♪

 「キューティーハニー」でした。なんでもM嬢の上司で私もだいぶ世話になったH氏の強力な押しがあったとか。
 「いや、これ、混声や男声でやればゼッタイ大受けだって!」
 H氏はそう力説したそうです。ほんまかいな。

 過去のアニメソング編曲集からの転載も、ほとんどしないことになりました。ちょっと残念です。サニーサイドの版型を引き受けて出してくれる出版社があれば良いのですが……『世界名作劇場』は10曲も入っているのでもったいない気がします。
 曲集の体裁は揃えることになりました。混声版・女声版・男声版とも、ひとつメドレーが入ります。メドレーにすると曲数を稼げる(ただし、私の作業負担は増える)ので好都合なのでした。
 混声版のメドレーは「宇宙戦艦ヤマト」でまとめました。今年末にキムタク主演の実写版が公開されるので、再びウェーブが来るに違いないという判断によって当て込んだのでした。主題歌の1番・2番の間に「ヴォカリーズ(無限にひろがる大宇宙)」「真っ赤なスカーフ」を挿入した形で、主題歌だけでも歌えるように作りました。
 男声版のメドレーは古き懐かしきヒーローものでまとめました。「デビルマン」「バビル2世」「科学忍者隊ガッチャマン」です。編曲するにあたってyoutubeであらためて聴いてみましたが、いやはや燃えます。萌えるのではなく燃えます。あの頃――この3作はいずれも1972年〜73年頃――のアニソンの有無を言わせないようなパワーに、今更ながら圧倒される想いでした。
 女声版のメドレーは「変身少女」でまとめてみました。とりあえずクラシックと言える「ひみつのアッコちゃん」「花の子ルンルン」それに「美少女戦士セーラームーン」を並べました。ミンキーモモから始まる魔法少女シリーズを入れるべきではないのかとか、プリキュアはどうなるんだとか、異論はありましょうが、きりがありません。
 メドレーの他に、共通曲である「キューティーハニー」、そしてあと2、3曲ずつ……となります。ページ数的にそのくらいが限界なのでした。メドレーの中の曲も、単独で演奏することもできる体裁にしましたので、実際には6、7曲収録されることになります。
 ここまで言及していない収録曲は次の通りです。

 混声版……「キン肉マン(キン肉マンGo Fight!)」「忍たま乱太郎(勇気100%)」
 男声版……「あしたのジョー」「マジンガーZ」「銀河鉄道999(これだけはサニーサイド本からの転録)
 女声版……「魔法使いサリー」「キャンディ キャンディ」「CAT'S EYE」

 こう見ると、いかにもなベタな曲が並んだものだと思いますが、やはりまずはこの辺を押さえておかないと、という選曲にもなっているようです。
 「なんで○○○は載っていないんだ!」
 という苦情が沢山寄せられそうですが、寄せられれば寄せられるほど第2集の実現が近づきますので、アニメ好きな合唱人たちの奮起を祈りたいところです。

 ……とは言うものの、はたして本当に苦情が沢山来るだろうか、と小声で言ってみたくなったりもします。
 合唱好きとアニメ好きは、本当のところどのくらい重なっているものなのでしょうか。
 私の歌っているChorus STの団長が、かつてとあるアニメのファンクラブの副会長をやっていたというツワモノだったりしますので、ある程度の重なりがあるのは確実だろうと思いますが、実際の割合としてはどうなのでしょう。
 『世界名作劇場』は、親子で見るアニメだったということもあって、私などの親くらいの、現在60〜70代くらいの世代にもアピールしましたが、今回の選曲はその点ちょっと弱い気もします。特に「キューティーハニー」なんか、たいていの子供たちは、親の眼を盗んでドキドキしながら見た番組だったように思います。
 現在50代あたりの世代になると、アニメにはあまり感応しない人が多いような気がします。この世代でアニメ好きというと、やや変人のたぐいに見られるのではないでしょうか。
 その下の40代が私の世代で、さらに下の30代くらいまでが、まあドンピシャなターゲットと言えそうですが、30〜40代というのは、合唱人口は決して多くありません。企業などでももっとも忙しい年代ですから、合唱活動を続けるのがなかなか難しいのです。そのあたり、多少危惧を覚えずにはいられません。
 20代になると、これらの選曲ではリアルタイムでの想い出が無さそうです。かろうじてセーラームーンと忍たまくらいでしょうか。最近はDVDやケーブルテレビなどで、古いアニメを視聴することが容易になっているので、おそらく他のものも知ってはいることでしょうが、思い入れというほどのものがあるかどうか……
 あとは、さらに下の大学や高校の合唱団で、ドンピシャ世代の先生が推すことを期待するくらいでしょうか。
 カワイとしてはちゃんと目算があっての企画だとは思いますが、何しろ売れてくれれば良いと願うばかりです。

(2010.5.29.)


II

 合唱編曲集『アニソン・フラッシュ!』が上梓されました。
 表紙やレイアウトにはタッチしていないのですが、カワイ出版の混声版・女声版・男声版それぞれのシンボルカラーである緑・赤・青のベタに近いデザインになっており、見ようによっては少々暑苦しいきらいがないでもありません。ぱっと見、同じデザインの色替わりに過ぎないように思えますが、よく見ると男声版で星型をあしらったところが女声版ではハートマークになっていたりして、微妙に違います。芸の細かいことだと思わず苦笑しました。
 『アニソン・フラッシュ!』というタイトルも、私がつけたわけではなく、編集部による命名です。三つの版に共通曲として含まれている「キューティーハニー」のヒロインの変身パスワード「ハニー・フラッシュ!」にひっかけた感じですが、わりとどのようにでも受けとられそうな語感でもあって、今後いろいろ展開しやすそうです。例えば将来、アニメソングではなくて特撮もののソングブックを作ろうとした場合も、「特撮フラッシュ!」とでもすれば、同じようなシリーズであることが一目瞭然となるわけです。そういえば混声版に入っている「キン肉マン」の決め技も「キン肉フラッシュ」でした(最初の頃だけ。「キン肉マン」がヒーローギャグマンガから超人プロレスマンガになってゆくにつれ、光線技みたいなものは一切使われなくなりました)
 三冊同時刊行ということで、本の最後についている刊行作品目録も急に項目が増え、欄が広くなった気がします。編曲ものばかり多くなるのは私としては痛し痒しというところですが、ともかく出版物が増えればそれだけ名前も売れるわけですから、素直にありがたいと思うべきでしょう。同じように作曲家を名乗っていても、結局一冊の楽譜も出版できずに終わってしまう人だって少なくないのですから。

 前にも書きましたが、一応内容を列挙しておきます。

《混声版》
 メドレー・宇宙戦艦ヤマト(「宇宙戦艦ヤマト」「無限に広がる大宇宙」「真赤なスカーフ」)
 キン肉マンGo Fight!(キン肉マン)
 勇気100%(忍たま乱太郎)
 キューティーハニー

《女声版》
 メドレー・乙女七変化(「ひみつのアッコちゃん」「花の子ルンルン」「ムーンライト伝説(美少女戦士セーラームーン)」)
 魔法使いサリー
 キャンディ・キャンディ
 CAT'S EYE
 キューティーハニー

《男声版》
 メドレー・勇者たちよ(「デビルマンのうた」「バビル2世」「ガッチャマンの歌」)
 マジンガーZ
 あしたのジョー
 銀河鉄道999
 キューティーハニー

 メドレーの他単発4曲、という形に統一したかったのですが、混声版の特に「勇気100%」が、10分ばかりの帯番組の主題歌にしてはむちゃくちゃ長くて、12ページも要してしまったため、混声版のみ曲数を減らさざるを得ませんでした。キン肉マンもけっこう長かったしね。
 キューティーハニーが全部入っている事情も前に書きました。編集部のH氏が強硬に推したのです。
 「これ混声や男声に入れたら、ぜぇ〜ったいウケるってぇ」
 その場にいたわけではありませんけれども、会議の席でH氏がそんな風に力説している様子が何やら眼に浮かぶようです。
 基本的にはどれもテレビ番組のオープニングですが、「銀河鉄道999」だけはゴダイゴによる映画版の主題歌です。平尾昌晃氏によるテレビ版オープニングもなかなかの名曲なのですが、絶版になったサニーサイドミュージック版の『アニメヒーロー・ヒロイン伝説』に載せていたものを転用させて貰ったためにそういうことになりました。多少なりとも作業負担を軽減したかったのと、サニーサイド版の「銀河鉄道999」については私のもとにけっこう問い合わせが多かったためでもあります。カワイとしては、他社の掲載物をそのまま転載することにだいぶ難色を示していましたので、ほんのちょっとだけ手を加えることで納得して貰いました。

 打ち合わせでは、他にもいろんな案が出ては流れていました。メドレーにしても、マジンガー三部作(マジンガーZ・グレートマジンガー・グレンダイザー)とかドラゴンボール三部作(無印・Z・GT)のように、番組としてもシリーズになっていたものをまとめるという案があり、現に最初の打ち合わせではかなり有望だったのですが、編集会議ではねられたりしていました。
 何しろ1万2千曲以上というアニメソングの海の中から、せいぜい20曲ほどを選ばなければならないわけですから、一連の作業のうち何が大変だったと言って、選曲がいちばん厄介だったような気がします。編集のM嬢と向かい合って、
 「……どうしましょうかねえ……」
 と何回口にしたことか。
 曲集そのものをシリーズ化できるのであれば、集ごとにテーマを設けるなど、いろいろやりようもあったのですが、第2集・第3集と続けられるかどうかは、その都度の売り上げ次第ですので、遠大な構想を立ててやってゆくというのもなかなか困難です。
 とにかく今回の本が売れてくれないことには、後につなげることもできません。『TOKYO物語』並みとは言わないまでも、いろんな合唱団が歌ってくれることを祈ります。

 ただ懸念は、アマチュア合唱団の大きな部分を占めるシルバーコーラスに全くアピールしないのではないかという点です。
 世界名作劇場のようなアニメであれば、今の60〜70代の人たちでも、子供が小さい頃に一緒に見ていたというケースが少なくないと思います。「サザエさん」「一休さん」「ドラえもん」「ちびまる子ちゃん」などの長寿アニメ、「良質」アニメも大丈夫でしょう。しかし、今回選んだような番組は、この年代はほとんど知らないのではありますまいか。
 50代もまだ怪しいところです。50代に入って間もない清水雅彦さんは、カラオケで「海のトリトン」「タイガーマスク」を歌ったことはありますが、今回掲載した曲はほとんどご存じなかったようです。まあこの年代は「人それぞれ」という感じでしょうか。
 ドンピシャなターゲットは30〜40代です。先日46歳になった私が小中学生だった頃の番組が大半です。「キン肉マン」は高校〜大学時代だったと思いますが、10歳ばかり年下の従弟がいわゆる「キン消し(キン肉マン消しゴム)を夢中になって集めていたのを憶えています。「セーラームーン」はもう少し後でしたが、この辺からそろそろ「大きいお友達」がアニメ市場に参入してきておりますので、私と同年代あたりでも知っている人はかなり多いはずです。
 問題は、この年代の合唱人口がどのくらい居るかということで、各地の合唱祭などの様子を見る限り、さほど大勢力を占めてはいないような気がするのです。みんな仕事や子育てでいちばん忙しい時期であり、よほど熱心な人でないと合唱を続けては居られないように思えます。女声版に関しては、小中学校あたりのPTAコーラスくらいがメインターゲットと言えるでしょうが、混声版・男声版はどんなものでしょうか。
 20代になると、一部の番組を除いてはリアルタイムでは知らないと思われます。まあ最近はDVDボックスなどがわりに手軽に買えるようになりましたし、ケーブルテレビでも昔のアニメがよく放映されておりますので、接する機会はあるでしょうが、われわれのようなリアルタイム世代の、「別に自分は番組を見てはいなかったけれども、友達が話題にしていたのでなんとなく憶えている」というような、共通の感覚というものは望むべくもありません。少しマニアックなメンバーが主導してくれることを祈るばかりです。大学の合唱団などなら、ある程度歌ってくれるかもしれません。
 さらに下の高校生くらいになると、これはもう、指導の先生がこの手の歌を好きであって欲しいと願うしかなさそうです。
 いずれにしても、50〜60代以上にアピールしそうにない合唱本がどのくらい売れるか、しばらく様子を見てみないとわかりません。一応、男声版を使ってみたいという話はひとつ受けていますが、やはり千くらいのオーダーで売れてくれないと、続刊は難しいように思われます。
 合唱人の皆さん、どうかよろしく!

(2010.8.30.)

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