忘れ得ぬことども

岩本仁志君のこと

 新しいMIDIファイル「故郷への道」をアップしました。
 「月姫の舞」をアップしたのが先月の16日ですから、大分間があいています。
 今回は、白鷺皐さんに編曲はして貰っておりません。従って、MIDI使いは大分荒いはずですが、それにしても始めた頃に較べれば大分ましになったのではないかと思います。
 私はアコースティックな作曲をする人間であって、MIDIは最近になるまで使ったことがありませんでした。しかし、これからの作曲家はMIDIくらい使えないと仕事が来ないのではないかと危惧を抱き、遅ればせに勉強を始めたわけです。
 実際、テレビのBGMとして使われているようなのは、最近ではほとんどがMIDIで打ち込まれたものであって、オーケストラを使ってのBGMなどは、NHKの大河ドラマなど、よほど予算がある番組に限られているようです。そのため、かつてそういう音楽の録音で食べていた演奏家の人たちも、この頃は一向に仕事が入らず、苦労なさっているらしい。これも時代の勢いというものでしょう。
 今回のMIDIファイルは、9年ほど前に、芝居の付随音楽として書いた作品を編曲したものです。
 この芝居「PIANO MAN」は、10月30日だったかの項に書いた、フジテレビ系で放映中のドラマ「ナースのお仕事2」のチーフディレクターをしている、友人の岩本仁志君が学生時代に作ったものでした。彼は東大の学生の頃、「劇団夢みるON THE ROCK」なる小劇団を作って、脚本と演出を手がけていました。「PIANO MAN」はその最終公演となった作品で、劇中でぜひ生ピアノを入れたいからと言うので、私が協力を求められたのです。
 東大の学生会館にあった、スクラップ寸前のオンボロピアノを使って、4日間の興行をなんとかこなしましたが、とても楽しい想い出です。この生ピアノは決してただのBGMではなく、劇の中で非常に重要な役割を持った、いわば陰の主役とも言うべき存在だったのも嬉しい話でした。
 私もよく
「好きなことを仕事にできて幸せですね」
と言われますが、岩本君もまさにその通りで、好きな演出の道に進めたのは何よりのことです。
 彼は、フジテレビの入社試験の時、
「演出部配属を希望。そこに行けないのなら入社しません
と面接で大見得を切ったとか。バブルの最中で売り手市場だったこともありますが、この大きな態度が、
 ――生意気な、面白そうな奴がいるぞ。
 と、かえって試験係の眼に留まり、めでたく合格したとか。
 結局入社試験などというものは、入学試験とは違って、印象の強い者が勝つようです。それを落とすような会社なら、まずは将来性がないと言っていいのではないでしょうか。

(1997.11.20.)

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