忘れ得ぬことども

アニメソング今昔

 ただいま、フジテレビ系で長年放映していた「世界名作劇場」初期作品のテーマソングを編曲するという仕事をしております。
 四半世紀ほど続き、先頃「家なき子」(安達祐実のではありません)を最後にネタが尽きたのか終了し、現在は同じ枠で「中華一番」などをやっておりますが、ああいう良質のアニメが打ち切られたのはなんとも残念な話です。
 私も子供の頃よく見ていました。子供の頃どころか、大人になっても「トラップ一家物語」とか「七つの海のティコ」とか、面白そうなのは時々見たほどです。まあそうでなくても、私は本来オタクに近いアニメファンではあるのですが……(^_^;;
 今回手がけているのは「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」「母をたずねて三千里」「あらいぐまラスカル」「赤毛のアン」の5作品の、それぞれオープニングテーマとエンディングテーマを、女声合唱版にするという仕事です。いずれも私が小学生から中学生にかけての番組であり、懐かしくてなりません。「フランダースの犬」のラストは泣いたなあ。
 ――パトラッシュ……もう、ぼく、疲れたよ……
 と呟いて倒れ伏すネロ少年の姿、まだ脳裡に焼きついています。また、「母をたずねて三千里」には原作にないサーカス一座が登場し、その一座の娘フィオリーナに、そこはかとない恋心のようなものを感じていたことも憶えています。
 テーマソングがまたそれぞれに印象的で、アニメの中のシーンに分かちがたく結びついています。
 前にも、昔のアニメのテーマソングを編曲する仕事をしたことがあるのですが、昔のものはどうしてああ印象に残っているのでしょうか。最近のアニメソングがちっとも憶えられないのは、私が齢をとっただけの理由とも思えません。
 考えてみると、昔のアニメソングは、主人公そのアニメの世界観といったものにきわめて密着した歌詞を持っていました。わかりやすいのは「デビルマン」でしょうね。

 ♪あれは誰だ 誰だ 誰だ/あれはデビル デビルマン デビルマン
  裏切り者の 名を受けて/すべてを捨てて 戦う男
  デビルアローは 超音波/デビルイヤーは 地獄耳
  デビルウイングは 空を飛び/デビルビームは 熱光線
  悪魔の力 身につけた/正義のヒーロー デビルマン♪


 テーマソングを聴いただけで、主人公のデビルマンがどんな奴かはもちろん、必殺技の内容までわかってしまうという、お得な歌詞になっています。ヒーローものにこの手のが多かったですが、それ以外でも、例えば「キャンディ・キャンディ」など、ヒロインのキャラクターが一目瞭然でしたね。最近のアニメには、こういうのがほとんど見られなくなりました。
 昔のアニメソングは作詞者や作曲者を調べようとしても、「東京ムービー企画部」となっていたりして、要するにアニメ全体の中での重要な一部門として、アニメ製作会社の中で(少なくともその発注で)作られていたことがわかります。
 歌い手も、大杉久美子さんとか佐々木功さんとか、アニメソングの専門家というべき人が活躍していました。
 それに対し、最近のパターンとしては、アーティストとタイアップしたものが非常に眼につきます。アーティストはアニメの主題歌として使って貰うことによって知名度を上げ、CDを売る。アニメ製作会社はアーティストを使うことによって、なんとなくおしゃれな気分を出す。そういう共生関係ができています。
 そういうパターンのはしりになったのは、メジャーなところでは「キャッツ・アイ」の主題歌を杏里が歌ったあたりからでしょうか。しかしこれはまだ歌詞の中にキャッツ・アイというタイトルテーマが出てきます。アニメの内容と全く無関係になったのは、「ハイスクール!奇面組」あたりからではないかと思います。この番組は、ほとんどオニャン子クラブ(懐かしい!)の新曲発表メディアと化しており、新曲が出るたびにテーマソングが差し替えられるという、とんでもないことになっていました。今も、途中で主題歌が頻々と変わってしまうアニメは少なくありません。
 主人公の名前を連呼するようなテーマソングではダサいという感覚もわからないではありませんが、それが行きすぎた結果、ほとんど印象の残らないようなアニメソングが増えたことも事実です。今の子供たちは、大人になって、どんなアニメソングを懐かしむことになるのでしょうか。

(1998.6.11.)

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