ここ半月ばかり、日本をめぐる国際関係が、実に見ていて飽きない状態になっています。 尖閣諸島への香港の活動家の上陸と逮捕、そしてまたも弱腰なことにそのまま強制送還、その後おこなわれた日本側の慰霊祭の参加者による泳いでの上陸──と、こちらのほうもなかなか大変なのですが、面白い(というのは不謹慎かもしれませんが)のはなんといっても韓国関連です。
はっきり言ってこの一連の事態に、日本政府も右往左往して腰が定まっておらず、情けないなあとため息をつきたくなったことが一度や二度ではないのですが、それ以上に韓国政府のほうが蜂の巣をつついたような騒ぎで迷走を続けているので、ウォッチしていると下手なバラエティ番組よりもはるかに笑える有様になり果てています。早い話が、日本政府がふらふらしながら何やら検討をしはじめると、韓国政府が勝手に深読みしてさらにドツボにはまってゆくということの繰り返しのように見えます。
先日の李明博大統領の竹島上陸以来、どんなことが起きているかまとめてみます。本当はその前の、ロンドンオリンピックでの数々のもめ事(なぜかその大半に韓国選手が関わっています)からカウントしたいところですが、それは一応触れないでおきましょう。
(1)8月10日 李明博大統領、竹島に上陸。日本政府は駐韓大使を呼び戻し、国際司法裁判所への提訴を検討。
(2)同日(日本時間では11日) オリンピックでサッカーのパク・ジョンウ選手が「独島」パフォーマンス。
(3)12日 上記のパフォーマンスがオリンピック憲章に違反している可能性が高いのでIOCが調査を始める。するとなぜか韓国は日本の体操選手のユニフォームが旭日旗に似ているというので騒ぎ始める。もちろん、旭日旗はオリンピックではまったく禁止されていない。
(4)13日 日本政府、韓国への金融協力はそのまま続けることを表明。
(5)14日 李明博大統領、「天皇は訪韓したいのであれば心から謝罪するべきだ。言葉だけの謝罪であれば来なくて良い」と発言。これを機に日本側が一斉硬化。
(6)15日 9月に竹島で軍事訓練をおこなうことを韓国が表明。また、「独島」をジオパーク化することを検討すると発表。
(7)同日 韓国のタレントら有志が「泳いで」竹島に上陸。
(8)16日 韓国政府、野田内閣との対話中断宣言。それでいて、「日本は未来を共に拓いてゆく同伴者」などと甘言。
(9)17日 日本政府、韓国の国連非常任理事国入りを支持しないことを検討。同時に、野田首相から李明博大統領へ向けて親書を発送。
(10)同日 韓国政府、日本の国際司法裁判所への提訴の提案を「一顧の価値もない」と切り捨てる。
(11)19日 韓国大統領府高官「韓日間の対立をこれ以上煽る措置はとらない方針」と発言。
(12)同日 竹島で李明博大統領撰による石碑の除幕式が開かれる。
(13)20日 韓国政府、日本が韓国の非常任理事国入りを支持しないなら、韓国も日本の常任理事国進出を支持しないと表明。
(14)21日 野田首相、韓国への追加の対抗措置検討を指示する。
(15)同日 韓国の外相も「天皇は韓国に来れば当然謝罪すべき」と発言。
(16)22日 韓国政府、(9)の野田首相の親書を受け取らずに突き返すことを決定。
(17)23日 親書を突き返すべく在日大使館員が日本の外務省を訪れるが門前払い。韓国政府は書留で親書を郵送することに。←いまここ
特に話題が無かったのは18日だけで、あとは毎日のように何かかにか動きがありました。この他、サッカー協会や新聞などでもいろいろとトンデモな話題が繰り拡げられていましたが、とりあえず政府など公式のものに限って記してみました。
色分けして書いてみたのでわかりやすいと思いますが、日本側が及び腰で何日おきかにうろうろと「検討」したりしているのに対して、韓国側がヒステリックと言って良いほどの過剰反応を示していることがはっきりします。例えば(11)の「煽らない宣言」と(12)の除幕式のように、相反するというか、舌の根も乾かぬうちにと言いたくなるような行動を同じ日におこなったりして、もう頭に血が昇りすぎて自分たちが何をしているのかもわからないのではないかと思われるほどの状態になっています。
なお、(5)の「天皇の謝罪発言」ですが、日本のメディアでは上記のように報じられたものの、原文を入手した人が居たようで、そちらも公開されました。はるかに激烈な表現になっており、まずいつものことながら天皇陛下を「日王」と1格下げて呼び、「膝を縛って」「頭をすりつけて」謝罪すべきだと書かれていたとか。これは、かつて中華皇帝が朝貢国の使者や国王に対して要求していた「三跪九叩頭」という儀礼を念頭に置いたものと思われます。偉大なる皇帝に拝謁できた喜びのために足腰が立たなくなったことを表すために膝でにじり歩き、額を床に打ちつけるというもので、清の乾隆帝の時に英国特使マッカートニーがこの礼を屈辱的であると拒否して物議をかもしました。
竹島上陸までは「ふーん」という程度だった日本人も多かったのですが、この発言で一挙に空気が変わったように思われます。そもそも天皇陛下が訪韓するという予定はまったく無く、李明博が就任した頃にちょっとだけ訪韓要請の話が出たというだけのことで、日本側から打診したわけでもなく、これっぽっちも具体化はしませんでした。それを、
──「訪韓したいなら」とは何様のつもりだ? 無礼ではないか!
と人々が怒りはじめたわけです。大統領府は、天皇が訪韓したいと言ったというのは誤りだったとのちに訂正しましたが、それも自国民向けの声明であって、日本に対してはなんの説明もありません。そして(15)で外相がさらに燃料投下をおこないました。
天皇陛下への暴言に対して、日本国民のこれほど多くが怒り出したことは、実のところ私にも意外でした。つねづね自分の親をバカにしたり悪口を言ったりしていても、他人に侮辱されたとなると我慢ならない、という心理に近いものがあるのかもしれません。
今日の門前払い(17)も、その空気に乗って、いままでさんざん腰抜けと罵られていた外務省が急に強気になった結果と言えないこともなさそうです。もちろん韓国大使館員がアポ無しでやってきたため、手続き上の問題でお引き取り願ったということなのでしょうが、従来だったら多少問題があっても迎え入れていたように思います。どうも、いままでは外務省が「日本人はみんな韓流が大好き」「韓国をむげに扱うとあちこちから批判される」というような(主にマスコミが作った)雰囲気に惑わされていたのではないかと疑いたくなるのですが、その呪縛からようやく解き放たれたのかもしれません。
竹島提訴についても同様です。以前は外務省は、
「提訴を申し入れても、どうせ向こうが拒否するんだから無駄だ。それに向こうの国民感情をいたずらに刺戟することになって得策ではない」
と言を左右にして逃げていたのが、
「いまや韓国も国連の一員なのだから、提訴を拒否すればその理由を説明しなければならない。提訴を持ちかけること自体に意味がある」
と、今までの弱腰な言動を忘れたかのように毅然とした姿勢をとるようになりました。国連の一員と言っても、韓国が国連に加盟してすでに20年以上経っており、最近になって国際的状況の何が変わったというわけでもありません。変わったのは日本国内の空気だけです。
なんだかんだ言って、日本の政治家はまだまだ全然優柔不断で、竹島提訴以外は、制裁措置も対抗措置もなにひとつ「決定」はしていません。「検討」しているだけです。
それなのに、韓国政府の周章狼狽ぶりはどうしたことでしょうか。
いままで何を言っても、どんな無理を持ちかけても、ニコニコ笑いながらうなづいてくれていた相手が、急にうんざりした顔になって眉をひそめた……という程度のことに過ぎないのですが、まるで開戦前夜ででもあるかのような大騒ぎになっています。韓国の新聞には「日本はもっと冷静になるべきだ」「日本は韓国との外交戦争を決意したようだ」などという文句が連日踊っているようです。
要するに、いかにいままで韓国が日本に対して「甘えて」いたのかという証左になるかもしれません。これまでの両国間は、どう見ても正常な2国家の関係とは言えませんでした。甘々だった「保護者」は、そろそろ「被保護者」を突き放して自立を促す必要があるように思えます。
「日本が過去韓国にひどいことをした」という定説も、そろそろ賞味期限が切れてきた観があります。従軍慰安婦だの強制連行だのの蛮行はほぼフィクションであったことがばれてきましたし、「植民地支配」なる呼びかたも正確でないことが知られるようになってきました(ただし、「併合」により韓国の独自文化を性急に日本文化に合流させようとした点は、それが善意だったにせよやはり問題があったと私は思います。むしろただの「植民地」であれば、反撥はしても「文化が奪われた」とまでは感じなかったのではないでしょうか)。
時が経ち世代が変わり、交流が深まれば、過去のわだかまりも融けて仲良くつきあえるようになるのではないかという呑気な期待も、韓国側が徹底的な捏造歴史教育によって反日感情を拡大再生産していることがだんだん明らかになって、もろくも潰えました。何しろわだかまりのないはずの若い世代ほど反日度合いが強く、第二次大戦では日本と韓国が戦ったと信じている韓国人が決して少なくないらしいのです(もっとも、これは日本人も笑えないところがあって、日本がUSAと戦争したことを知らない若い人が居ると聞いたことがあります)。
こういったことはネットでは以前から有名でしたが、日本のマスコミが「日韓友好に配慮して」ほとんど報じていなかったために、ネットをやらない人たちにはまず知られていませんでした。
政府レベルでの制裁措置、対抗措置は、現在の民主党政権では大したことが期待できそうにないのですが、現在、国民感情レベルではだいぶ変化が起きている気がします。予定されていた韓流ドラマの放映を見送る放送局も出てきました。
私は別に対立を是とするわけではありませんが、日韓関係がもう少し「普通の国家関係」になって貰いたいと思う次第です。一方的な配慮や特別扱いをやめて、単なるひとつの「外国」として(まあ「隣国」ではありますから多少の保留部分はあるにしても)接することができるようになれば、それで充分です。
この半月のごたごたが、そこへ向かって動き出すための陣痛期間であるならば、これは歴史の転換点として実に面白い見ものです。どうなるかはわかりませんが、もうしばらく興味深くウォッチしてゆきたいものだと考えています。
(2012.8.23.)
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