最近、ボードゲームがまたはやりだしているようです。日本では長いこと、電子ゲームが天下をとったような状態で、それにトレーディング系のカードゲームが次点で頑張っているような趣きがありました。ボードゲームも廃れたわけではありませんが、ややマニアックな人々がやっているという印象が強かったような気がします。 電子ゲームがなかば飽和状態のような感じになってきて、トレーディングカードゲームも種類は多くとも大同小異という様相をおび、何人もでゲーム盤を囲んでわいわいと愉しむボードゲームが復権してきたというところかもしれません。 今期(2019年秋)は「放課後さいころ倶楽部」などといったボードゲームをテーマにしたアニメも放映されています。かつて「遊戯王」というマンガがあり(スピンオフみたいなアニメはいまだにときどき放映されていますが)、いろんなゲームが登場する中で、いくつかボードゲームのネタもあったのですが、トレーディングカードゲームネタが圧倒的に好評で、中盤以降はほとんどそればかりになってしまいました。「遊戯王」に出てきたボードゲームはいわゆる「闇のゲーム」でマンガの中だけのオリジナルでしたが、「放課後」のほうは、実在するボードゲームを毎回紹介しているところが特徴です。 私は最近のボードゲームをほとんど知らないのですが、ドイツあたりを中心に、どんどん新作が作られてきているようです。いくつかはパズル雑誌「パズル通信ニコリ」の特集記事で読んだことがあります。ドイツは電子ゲームはあまり普及しなかったようで、アナログなゲームのほうが好まれていたのでしょう。 囲碁や将棋などもボードゲームの一種と言って良いのですが、私たちの世代だとやはり「人生ゲーム」のインパクトが大きかったと思います。基本的なゲームデザインとしては要するにすごろくなのですけれども、サイコロではなくルーレットを用いるところ、ホンモノのドル札を模した紙幣、自動車型のコマに配偶者だの子供だのを加えてゆくところなど、それまでのゲームに無かったさまざまなギミックを満載したあたりが劃期的でした。 友達の家に人生ゲームがあり、私たちは夢中になって遊んだものでした。 自分でも持ちたいと思い、親にねだったのですが、父が買ってきたのは人生ゲームではなく、同じ制作会社の「億万長者ゲーム」でした。間違えたわけではないのでしょう。父はいささかアマノジャクというか、よく言えば反骨の人で、人と同じものを持ったり同じことをしたりするのが嫌いであり、その志向を子供にも強要するようなところがありました。 ──人生ゲームなら○○くんの家にあるんだから、そこへ行って遊べばいいじゃないか。うちは違うゲームを置いといたほうが面白いだろう。 ということだったのでしょうが、私としては少々がっかりしました。 「億万長者ゲーム」はモノポリーをモデルにしたゲームで、小学生には少々難しめでしたが、それでもルールを憶えると楽しく遊べました。もっとも、残念ながら友達と遊んだ記憶はありません。家族ではよくやりましたが、小学生である友達にはやはり難しくて、あんまり面白く感じられなかったのかもしれません。 後年、モノポリーをはじめてやったとき、おかげですんなりとルールを呑み込めました。「あ、これって億万長者ゲームじゃん」と思ったのでした。億万長者ゲームには無かった「交渉」のルールには少々面食らいましたが。 億万長者ゲームもそれなりに面白かったとはいえ、人生ゲームがその後もシリーズを重ね、いろいろ社会時流なども採り入れて作られ続けたのに対し、億万長者ゲームのほうは後継シリーズも無く一発だけで終わってしまいました。やはりあまり人気が無かったのでしょう。 子供の頃の想い出と言えば、マイナーなゲームですが、「日本周遊ゲーム」というボードゲームをけっこうやりました。これは一本道でない、多岐ルートのすごろくと称すべきもので、有名観光地をめぐってそこのカードを集めるというのが目的でした。東京から遠い観光地ほど点数が高いという、えらく東京集中型のゲームでしたが、私はこのゲームと、もうひとつ夢中になってやっていた都道府県ジグソーパズルのおかげで、日本地理をかなり身につけました。考えてみると、後年のテレビゲーム「桃太郎電鉄」などはこのゲームの発想と共通していたように思います。 この周遊ゲーム、「世界」版もあったのでしょうか。いまなら世界遺産めぐりゲームみたいなものも作れるかもしれません。 祖父の家に、戦前のものらしいえらい古いボードゲームがあったのを憶えています。10種類くらいのゲームがセットになっていました。あとから思えば、バックギャモンやチェッカーなどに類似したものが含まれていたような気がします。あのゲーム類はその後どうしたのでしょうか。私の家族は、私が高校生の頃に祖父の家に同居をはじめ、祖父母が亡くなってそのままその家に住んでいましたが、それらのゲームをあとになって見た記憶がありません。物置の片隅にでもまぎれこんでいるのか、まとめて処分してしまったのか。まだあるのなら、ボードゲームショップにでも持って行けばけっこう良い値で売れるのではないかと思います。 その中にも含まれていましたが、軍人将棋というのがありました。これはどういうわけか友達の家でもあちこちで見た記憶があります。戦後の思潮からすると、軍国主義的でまことにけしからんゲームだと排斥されそうな内容であるのに、さほど弾圧もされずに多くの家庭にあったのが不思議な気がします。 全部同じものではなくて、いくつかの種類があるようでした。コマの進めかたも、表にして進める遊びかたと、裏返して進める遊びかたがあったように記憶しています。普通の将棋の王将にあたる、これを取られたら負けというコマは、「大将」であることが多かったのですが、たまに「元帥」になっているものがありました。私は「元帥」という言葉を、軍人将棋で覚えたのでした。最初は「帥」の字を「師」と間違え、ガンシとかゲンシとか読んでいました。一緒に遊んでいた友達も、読みかたを知らなかったようです。 自分でボードゲームを作ってみたこともあります。子供の頃の私は、何かに興味を持つと、すぐ自分でも作ってみようとしました。実際のところ、作曲をはじめたのも、その「自分でも作ってみた」もののひとつに過ぎません。母が自分の楽しみで弾いていたピアノを真似して弾きはじめ、そのときに見る楽譜に興味を持って自分で作ってみたというのが最初でした。それからマンガも描きましたし小説も書きましたし、長じては「RPGツクール」にもはまりました。 ファミコンでドラゴンクエスト、女神転生、MOTHERくらいをやったあたりで、自分でもRPGというものを作ってみたくなり、かなり詳細にシナリオとかアイテムなどを作成したことがあって、それでもプログラミングの知識がないので実現は無理だろうと思っていたところ、RPGツクールにめぐりあい、すぐに購入してゲームを作ってみたのでした。ただし、考えたシナリオをすべて消化するには、当時のツクールは容量が小さすぎ、ほとんど序盤が終わったところまでしか作れず、少年マンガによくある「『俺たちの戦いはこれからだ!』END」にせざるを得なかったのでしたが、それでも一応完成させたときには感動したものです。 RPGツクールは一応大人になってからはまったのでしたが、小学生高学年から中学生くらいの頃に、ボードゲームをひとつ作ってみたのでした。 確か「SPYゲーム」というのだったと思います。「日本周遊ゲーム」のような多岐ルートすごろくに、祖父の家で見た古いゲームのひとつのテイストを足した感じでした。 2〜4人用のゲームで、プレイヤーはそれぞれの「国」を持っています。動かすコマは「スパイ」ふたつ、「憲兵(MP)」ひとつだったかな。それぞれの国の「本部」に機密書類がふたつあり、プレイヤーはスパイゴマを動かして他国の機密書類を奪おうとします。ただ奪われては困りますので、憲兵ゴマを動かして、自国に侵入した他国のスパイを逮捕します。 逮捕されたスパイは牢屋に入れられますが、自国のもうひとりのスパイが助けに来れば脱出できます。 スパイをふたりとも逮捕されるか、書類をふたつとも奪われたプレイヤーが出た時点でゲームオーバー、だったと思います。 コマを動かすのは、ふたつのサイコロを振るのだったかな。それで、出た目の数だけ、自分のコマを動かすわけですが、3つのコマに割り振っても良いということにしていた気がします。つまり8が出れば、スパイを3つずつ動かし、憲兵をふたつ動かす……ということも可能でした。 いま思い出しながら書いてみて、これは案外面白いのではないかという気がしてきました。もう少しブラッシュアップすれば、けっこう市場に通用するボードゲームになるのではないでしょうか。 ルートのつながりかたとか、コマの進めかたとかをもっと吟味するべきでしょう。テストプレイを繰り返して、スパイと憲兵のパワーバランスなども調整したいところです。「国」のほかに中立地帯なども設置したり、スパイ同士の書類争奪戦などもできるようにすれば面白くなるでしょう。 当時もテストプレイを1、2回やってみました。一緒に遊んで貰ったイトコが、「MP」と書かれた憲兵ゴマのことをしきりに「マッポ」「マッポ」と呼んでいたのが記憶に残っています。いまさら言うまでもありませんが「マッポ」は昔の不良コトバで警察官のこと、特に暴走族が交通機動隊のおまわりさんのことを呼ぶときによく使いました。ドラマ版の「スケバン刑事」の決めゼリフで、斉藤由貴演じる麻宮サキが ──スケバンまで張ったこのアタシが、いまじゃマッポの手先。 と言っていたのも遠い想い出です。イトコは「MP」というアルファベットから、「マッポ」という言葉を連想したのでしょう。 コマはボール紙を丸く切り取っただけのものでしたし、ゲーム盤には国別の色を色鉛筆で塗り分けたルートがあるだけでイラストも何も無く、ごく粗末なサンプルに過ぎませんでしたが、それなりに楽しかったような気がします。また作ってみようかな。 最近のボードゲームは、盤面も非常にカラフルで、コマやカードなどのデザインも凝っていて、眺めているだけでも楽しいものが多いようです。そういうのも凄いと思いますが、やはり本質的には、ゲームとして面白いかどうかが重要でしょう。ルールが複雑すぎないというのも大事だと思います。
逆に、電子ゲームで用いられた要素をボードゲームに応用するといったことも可能でしょう。テーブルトークRPGとボードゲームを合体させるというのもアリだと思います。 なんにしろ、コンピュータ相手のひとり遊びであった電子ゲームが、オンラインゲーム化によって「他人」とつながるようになり、それがまたリアルな「他人」を相手に遊ぶボードゲームに回帰しつつあるのは、良い傾向と言えます。もともと「他人との会話」によって成立するものであったロールプレイングゲームは、ボードゲームとも相性が良いはずです。 マダムの実家で、ときどき(最近の)人生ゲームなどを遊ぶことがあるのですが、もう少しいろんな種類のボードゲームをやってみようかと思いはじめている今日この頃なのでした。 (2019.12.7.) |