2000年7月の作品 |
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連狂歌は開始後数日を経ずして大評判となってのお、7月はなんと195首もの作品ができてしまったぞい。
もちろん、玉石混淆、ハズしたのもあればわけのわからんのもある。しかしさすがにこれだけ集まると中には光るものが含まれておるぢゃろう。
何人かの方々に協力して貰った結果、ノミネート作品として次の17首を選んだのであった。
では、1首ずつ検討しながら、グランプリを決めようと思う。
29番は、不覚にも読んだ途端に大笑いしてしもうた。句ごとのつながり方が実に自然で、そのくせ展開が予想もつかぬ方向へころがってゆく。しかも全体の統一感がとれていて、少しも違和感がなく、想像される情景(全裸で突っ走っている毛深い男)も可笑しいという、連狂歌のお手本と言ってよいような出来映えぢゃな。
32番、「うふふ」の二連発が効いておる。ほんわかした雰囲気の中にそこはかとない淫靡さが漂ってよろしいな。ラベンダー畑という舞台にもよく適っておる。難を言えば、「畑」の縁語とはいえ、3句目の「種付けて」が、あまりに直截的過ぎて、全体の品を下げているのが惜しいのお。
40番はこーき氏(うじ)の撰ぢゃ。眼から煙を出して虫退治をする女というのはなかなかシュールである。一方、女の眼にイチコロなのは男のサガぢゃからして、それにひっかけているのも悪くない。ただ、後者の立場で見た場合、「煙出てきて」というのは少々無理な光景ぢゃな。
42番はだーこ氏の撰。きれいにまとまってはおるが、「君」が二回出てきてしまったのがくどいかのお。恋しいのか想いが色あせたのか、どっちなんぢゃと言いたくなり、少々中途半端の懸念もないではない。ただ全体が文語調でまとまったのはなかなかよろしい。
87番も浪漫系であるが、この方が自然かもしれぬ。星空を見ているうちに想いがつのり、たまらなくなって恋文を書いたのぢゃが、書いたところで冷静になってみれば、こんなものを手渡すなど恥ずかしくてできるものではない。そのまま破って、暗然とした気分で床につく。こういった心理は誰にでも納得できるぢゃろう。片想いの気持ちを切に歌い上げた一首ぢゃな。
101番はこれまただーこ氏が推した作品ぢゃ。どうもこの御仁は「想いが色あせる」のがお好きなようぢゃな。この場合色あせたのは詠み人の想いか、「あなたのこころ」か。両様にとれるのは悪くないが。42番に較べると、口語体と文語体が混ざってしまったのが残念なところ。
117番は打って変わってブラックな世界ぢゃ。ここまで破滅的に突進する作品も珍しい。最期をとげた原因がワライタケというのも痛烈なブラックジョークぢゃし、そのワライタケの発作のせいではなく食べ過ぎたための腹痛というのもナンセンスで意表を衝く。喪黒セールスマンがどこかで「ほーっほっほっほ」と笑っているような気がするではないか。笑いながら苦痛にのたうちまわっている主人公の異様な光景にはうなされそうぢゃな。
127番、連狂歌自体を題材にしてあるのはありがたい話ぢゃが、「やみつきになる」と「習癖に成り」がかぶってしまったのが残念ぢゃ。これは吉会芸術活動促進部主任代行氏の撰であった。
134番は季節モノのネタぢゃな。しかし皿を数えるのは番町皿屋敷で、牡丹灯籠ではないぞい。怪談ならどれでも一緒などと言わず、どうせなら細かいところにこだわりたい。
137番、確かに忙しい舞台裏ではそういう場面もありそうぢゃが、連狂歌としてはストレート過ぎるきらいがある。もうひとひねり欲しかったのお。
149番、人名が入った作品として取り上げてみた。湯長氏という御仁のお人柄を知っておるとよりうなづける。「何事も引くが肝心、押すは野暮なり」というその言葉もなかなか含蓄に富むのお。難を言えば湯長氏をご存じない方々にはややわかりづらい点か。
162番、情景として美しい気はするが、よくよく考えると妙なことを言っているのがおわかりぢゃろうか。まず、野分とは台風のことぢゃからして、それが吹いている夜空に星が見えるわけがない。また、星は大気圏より上にあるのぢゃからして、「大気圏へ旅立つ」というのは地上へ落下することになる。つまりこれは、流れ星が地球の大気圏に突入して燃え尽きてしまうが、地上では台風のためそのありさまが誰にも見られることがないという、まことに孤独でむなしい心情を歌った作品なのぢゃ。
173番は、まだ若くて青くて性急なる青少年のはやる気持ちを歌ったものぢゃな。あれこれと想いをめぐらし、ああもあろうこうもあろうと考えるのが恋の醍醐味なのぢゃが、近頃の若い者は辛抱がならん。一刻も早い肉と肉との接触を求め、情緒も何もあったものではないな。それでいて、ヘタだとでも言われようものなら一丁前に落ち込んでしまうので、ここは秘伝の技を修得して相手をメロメロにしてやろうという安直な考えに走るわけぢゃ。色の道は一日にして成らず。まずは自分を磨いて出直して参れ。
175番はProたま氏の「一点押し」作品ぢゃった。時事ネタっぽくてよいということぢゃったが、ワシにはよくわからん。そもそもテレクラで「久しぶり、ご無沙汰だったの」となるのも妙な話ぢゃな。たまたま前と同じ男に当たったか。それならば運命的なものを感じぬでもない。
185番も人名ネタ。先月は屁がくさいと言われてさんざんだっただーこ氏ぢゃが、ここではいやにいい想いをしておる。しかし何を確かめ合ったのかのお。32番の続編として読むと面白いやもしれぬ。ラベンダー畑では土で汚れてしまったろうからな。
186番はこーき氏の推薦。うなじ姿をかき分けるというのが微妙ぢゃが、こーき氏はこれを沢山の和装美人と見たらしい。和装美人が群れ集っているので、何事かと思って間をかき分けて前へ出てみたら、なんとモンゴル相撲だったという趣旨である。詠み人としては拍子抜けした気分なのかもしれぬが、いったい何を期待しておったのかのお。
204番、それなりに含蓄のある作品かな。「夏の終わり」ではなく「7月の終わり」であり、後悔が「苦い」のではなく「酸味が強い」であるというあたりがミソであろう。ただしどういう含蓄かはワシは触れないので、おぬしらが銘々考えてみるがよい。
どれも捨てがたいものがあるが、今回はインパクトの強さで、117番をグランプリとさせていただく。いまいちブラック過ぎて後味がよろしくないようでもあるが、夏の最中ゆえ御容赦願おう。29番、87番あたりも考慮したが、グランプリとするにはやや決め手に欠ける感じであった。
ワライタケ/たらふく食ったら/腹痛で/のたうちまわり/最期をとげる |
7月の作品はいかがであったかな? 8月は、さらにすぐれた作品を期待しておるぞい。ではまた、お目にかかろう。じょわっ。