ようやく『セーラ〜A Little Princess』の編曲が終了しました。3月21日の日誌で、第一幕の終盤あたりにさしかかっていると書いていますので、それから第一幕を終わらせ、第二幕と第三幕を書き上げるのに1ヶ月以上かかったことになります。着手したと書いてあるのは2月26日ですから、そこから数えればほぼ2ヶ月になります。2月は28日までしかないので、ちょうど2ヶ月と言っても良いかもしれません。 いつもの板橋オペラの編曲よりも長くかかっていますが、これははじめて全曲をひとりでやったからで、それでもかろうじて例年より1週間ばかり早い進行になっています。新曲なので楽譜は奏者になるべく早く渡したほうが良いでしょう。リハーサルはいつもと変わらない回数しかとれなかったので、各自の譜読み力に期待するしかありません。 本当はもっと早く仕上げたかったのですが、浮き世の雑用が次々と舞い込んで、なかなか集中することができません。1週間というわずかな差ですが、早く仕上がったのは上出来と言って貰いたい気がします。
もちろん、これからまだパート譜を作るという作業が残っています。すでにいくつか作成しましたが、これがどうも意外に手間取りそうです。楽器が16種類使われ、1場につきひとつのファイルにしているので、全部で96個ということになります。ファイル数だけでもうんざりしてしまいます。
楽器によって、曲中での使用頻度はだいぶ違っていて、特に多いのはアルトサクソフォンとバリトンサクソフォンでしょう。これらは合計するとパート譜だけで80ページを超えることになるかもしれません。
一方トランペットなどは出番が少ないので、半分以下で済むでしょうが、それでも30ページを下るとは思えません。まったくわれながら、長い曲を書いてしまったものだと思います。
長さのひとつの基準として、小節数を考えてみると、『セーラ』は次のようになります。
第一幕第一場 850小節
第一幕第二場 539小節
第二幕第一場 824小節
第二幕第二場 752小節
第三幕第一場 657小節
第三幕第二場 250小節
第三幕第二場だけ少ないですが、これはもともとエピローグとして置かれたシーンです。ラストの合唱曲だけでその半分を占めています。
合計3872小節、むろんのこと私のこれまで作った曲の中で最長です。これまで最長の『葡萄の苑』で1940小節くらいですから、その倍以上の長さになります。
台本上でほんの数行のセリフでも、音に乗せるとたちまち何十小節も費やしてしまうことが珍しくありません。下書きの段階から小節数はいちおう数えていましたが、その数字がぐんぐん伸びるので、しまいに空恐ろしくなってきたほどです。ひどく冗長な音楽になってしまっているのではないかと気が気ではありません。
モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の第二幕フィナーレとか、『フィガロの結婚』の第二幕フィナーレなども、それだけで800小節を超えていますが、これは相当にテンポの速い部分がかなり含まれています。しかし『セーラ』の場合、いちばん速くて4分音符が160くらいで、これはそんなにめまぐるしく速いというテンポではありません。しかもそんなハイテンポのところはごく少なく、おおむね80〜100くらいなものです。プッチーニのオペラの場合は、ワンシーンで800小節などというのはほとんど無いようです。
稽古に入って、実際に音を出して貰うと、それほど長い気はしないようなので安心しました。実際、
「正味2時間半くらい、休憩を入れて3時間かな」
と私が予測を口にすると、
「そんなにあるかな?」
と驚く人が多いのでした。長い曲を長く感じさせないとすれば、これは自信を持って良いところでしょう。ただし、まるまるひとつのシーンをぶっ通しで流したということはまだほとんどありません。練習ピアノとオーケストラの違いもあることでしょう。はたして最後まで退屈せずに聴ける曲になっているかどうか、まだまだ断定はできなさそうです。
本物のフルオーケストラであれば、さまざまな音色で和音を作ることができます。
弦楽合奏とホルン四重奏は、同一の音色で重厚な和音ができるので重宝しますし、場合によって使い分けを図れます。トロンボーンも普通は3本使い、チューバと合わせて4声体とすることもできます。木管楽器は2管編成だと単一音色で作れるのは重音までで、和音にはなりませんが、別種の音色の組み合わせによって面白い効果が得られます。
残念ながら「板橋編成」ではそういうわけにはゆきません。同一音色で和音を作れるのはサクソフォンだけです。今回、弦楽器はヴァイオリンとチェロとコントラバスを使うことができ、まあこの3つで弦楽合奏を構成することは不可能ではありませんが、第二ヴァイオリンはともかくヴィオラが無いとやはりバランスが良くありません。金管楽器はトランペット・トロンボーン・バストロンボーンが使えましたが、これも和音を作るにはややアンバランスです。
せめてファゴットかバスクラリネットでも居てくれれば良いのですが、サックス以外の木管楽器も高音域楽器ばかりなので、結局サックスに頼らざるを得なくなります。
弦楽合奏の代わりにもサックス、ホルンの代わりにもサックス、ファゴットの代わりにもサックスで、とにかく大忙しです。音色の多様性を持たせようと、あれこれ試行錯誤するのですが、やはりサックスに頼りきりにならざるを得ません。音色の点でいささか単調であることは、これはどうしようもないところです。
いままでのように、フルオケのための元譜があって、それをアレンジするという際には、このことはそんなに気にならなかったのですが、「元の音」というものの無い今回は妙に気にかかりました。
──またサックスか!
と舌打ちしたいような気分にしばしばかられたのでした。
ピアノをベースにして作っていると、なるべく気をつけてはいるのですが、どうしてもときどき「ピアノっぽい伴奏型」といったものが顔を出してしまいます。そのまま他の楽器に移しても、さほど効果がないのではないかと思われたりします。特に分散和音の形などはそうなります。
編成の中にピアノが含まれているのだから、そのままピアノにやらせてしまえば良いようなものなのですが、「将来もしフルオケにアレンジする機会があったらどうしようか」という懸念が振り払えません。ハープに移すと言っても限度があるでしょう。
そんなことをいろいろ考えてしまうので、今回のアレンジは決してスムーズな作業ではありませんでした。
それでも、とにかくスコアができたことには満足しています。ちなみにスコアの合計ページ数は661ページでした。
(2015.4.27.) |