MIC's Convenience
第4回オフ会報告(その3)



なんでもありなミニコンサート


 トップを切って進み出た炎之Continuoさんは、

 木村弓中島みゆきの主題によるプレリュード・トッカータ・カンツォーナ」

 なる面妖な曲を弾き始めました。大体想像がおつきと思いますが「千と○尋の○隠し」の主題歌および「プ○ジェ○トX」の主題歌を用いたパロディ音楽です。
 こういうのが真っ先に出てきましたので、一気に場の雰囲気が和みました。

 ──友達の家でピアノを囲んでわいわいと……

 という雰囲気にしたいと私が繰り返し申していたにもかかわらず、まじめに演奏しなければならないと思っていた人も多かったのではないかと思われますが、ずいぶん気が楽になったことでしょう。
 だーこちゃんが勢いづいて、

 「じゃあぼくもポピュラー系ということで」

 と舞台に駆け上がり、井上陽水「夏の終わりのハーモニー」を弾き始めました。が、暗譜ができていなかったらしく、しばしばつっかえては

 「うぉっ?」

 「むはっ?」

 などと、合いの手ともかけ声ともつかない叫び声を上げていました。おかげで座はさらに和んだようで、次々とネタが登場するようになりました。
 JOEさんのマンドリンも登場。演奏もさることながら、彼の場合は関西人らしく、演奏前のトークが抱腹絶倒です。それで何を始めるかと思ったら、

 ──♪お〜か〜を〜〜こえ〜て〜いこぉよ♪

 でまたまた大爆笑。
 メルさんが起ち上がり、

 「それじゃあ、あたしもクラシックはやめて……」

 とやにわに弾き始めたのは「ラジオ体操第一」。大笑いしながら、みんな立ち上がって体操を始めます。ただし約2名ほどノリの悪い人がおりました。うちひとり、ぶんげんさんは、後刻それをとがめられ、こう釈明しました。

 「いや、実はラジオ体操にはトラウマがありまして……ぼくは運動神経が鈍くて、いつもみんなと違った動きになっちゃうんですよ。それで体育の教師にぶん殴られてばかりおりまして、全然できなくなってしまったんです」

 もうひとりは炎之Continuoさんでしたが、彼は「ラジオ体操第一」が済んでみんなが

 「『第二』も行きましょうよ〜〜」

 と言っていると、

 「ちょっと待った待った」

 と舞台へ行き、メルさんを押しのけて「首の運動」の曲を弾き、それが終わるとまたメルさんにバトンタッチしたのでした。ノリが悪いと思ったら、どうもそのネタを狙っていたらしい。


 こんなおバカなネタばかりではなく、まともな演奏もありました。ぶんげんさんはさすがにプロの貫禄というか、きちんと仕上げた曲をいくつも吹いてくださいましたし、ENAさんやなるしークンたち合唱団のお仲間も素敵な歌声を聴かせてくださいました。
 私の「秘密の小箱」を歌ってくださったのはとてもありがたい話で、この歌は、今回参加できなかった吉会芸術活動促進部主任代行ちゃんの詩に作曲したものですから、オフ会で歌うのはたいへんふさわしいものと思います。合唱の伴奏はENAさんが弾きましたが、非常に柔らかい、きれいな音色で弾かれるので驚きました。
 ちょっと間があきそうになると、たちまち炎之Continuoさんかだーこちゃんのいずれかが進み出て場をつないでくれるので助かりました。炎之Continuoさんは多彩なネタものを次々と披露します。一方のだーこちゃんは、出るには出るのですが、何やら弾き始めたかと思ったらすぐ

 「やーめた」

 と戻ってきてしまうことが相次ぎました。どうもネタの仕込みが不充分だったようです。
 もちろんふたりとも、まともな曲もやりました。炎之Continuoさんはバッハ三声インヴェンションだーこちゃんはショパン英雄ポロネーズを弾いて、ネタものばかりの弾き手ではないところを証明したのでした。


 ぶんげんさんには前に『無伴奏フルートのためのパルティータ』という、私が高校生の頃に書いたまま音にすることもなかった作品を送っていたのですが、このオフ会でその全曲を演奏してくださいました。作曲から20年以上経った初演です。これには感激いたしました。
 ただ私が感激するのは当然のこととして、こんな若書きの曲を長々と聴かされた他のメンバーはどんな気分だったのだろうかと少々気になりました。無調性ではあるし、そのくせそんなに眼を瞠るような斬新なことをしているわけでもないし、ただただ退屈だったのではあるまいかと、一抹の不安があります。もちろん、つまらなかったなどと口にする人は誰も居ませんでしたけれども……
 ともあれ、私に関しては、この曲が音になったのを聴けたというだけでも、今回の企画をやった甲斐はあったというものです。


 私自身は聴き役に徹していようかとも思ったのですが、ぶんげんさんがわざわざ郵送してくださったフルートとピアノの合わせものがありましたので、後半になって腰を上げました。ぶんげんさんはだーこちゃん、ENAさん、メルさんのそれぞれにも合わせものの楽譜を送っておられ、ぶんげんさんなりにこの企画を盛り上げようとされていたことが思われます。
 私のところへ来ていたのは、モーツァルトフルート四重奏曲の、弦の部分をピアノにアレンジした譜面で、他の人たちと同じくまるっきりのぶっつけ本番でしたが、まあまあ尻尾を出さずに済みました。
 それから、初見でやってみようかと思っていくつか歌ものを持って行っていたのですが、さすがにこれは皆さん困難だったようです。


 時間があっという間に過ぎて、終了予定の17時半が近づいて参りました。
 最後を締めるのに、私に何か弾けという皆さんの要求があったもので、「South Island Lullaby」という短いピアノ曲を弾いて終わりにしようと思いました。
 ところが、弾き終わって帰り支度にかかろうとすると、ささ木ホールのオーナー、佐々木照治さんがやって来て、

 「とても楽しい会でしたねえ。ちょっとコーヒーでも差し上げたいと思うんですが」

 と言うので、遠慮なくご馳走になることにいたしました。
 オーナーは最初から最後までずっと聴いていたようで、恐縮の至りです。今回のような催しは、参加者は楽しいのですが、客観的に聴いていると散漫この上ないでしょうし、実際のところちゃんとしたホールを借りるのが心苦しいような気がしていたのでした。
 メルさんのラジオ体操がとりわけインパクトあったようで、

 「どこかで弾いてらしたんですかねえ」

 とオーナーに訊ねられたメルさんは眼を白黒させていました。

 「いやあ、本当に、いろんな演(だ)しものが出てきて、楽しかったですよ。どうです、いっそここで毎年やりませんか」

 香りの良いコーヒーを淹れながら、オーナーはそんなことを言いました。
 少なくとも参加者には愉しんで貰えたようで、この種のオフ会を定例化したらどうか、などという意見も上がっており、ホストとしては嬉しい限りです。しかし毎年となるとどんなものですかね。皆さん、すぐにはネタもたまらないことでしょうし。
 それにしても考えてみると、東京でこの種のオフ会を開こうとすると、案外困難かもしれません。自分で演奏するというメンバーが意外と少ないようなのです。なぜか名古屋近辺でそういうメンバーが揃っていたらしく、今後やるとしても、名古屋限定イベントということになるかもしれません。
 ともあれ「次」につながりそうなのは良かったと思います。今回やってみて、もし冷え冷えとした雰囲気で終わってしまったら大変なことになるところでした。


 オーナーが茶菓をふるまってくださったのは大変ありがたいのですが、ふと気づくとずいぶん時間が経ってしまいました。オフ会はこのあと名古屋駅ビルの中華料理屋に場所を移して「第二部」をおこなうことになっていたのですが、店を予約した時刻が迫っています。肝煎りのぶんげんさんが、多少遅れそうだと電話を入れてくれましたが、どうも「多少」どころではなくなりそうな雲行きでした。
 第2部のみ参加のモナリザ・もういらない子さんが、第1部終了間際になってささ木ホールに立ち寄ってくれたので、待ち合わせのことを気にする必要はなくなりましたが、移動にはだいぶ時間がかかりそうです。
 モナリザ・もういらない子さんはクルマで来ていたので、駅までピストン輸送してくれることになりました。あとから考えれば、素直にタクシーを呼んでおいた方が簡単だったようでもありますが、ともあれ第1部のみで帰ってしまうfaunaさん、さっちゃんさん、おおたさんを除いて、モナリザ・もういらない子さんはクルマに3人ずつ乗せては駅まで2往復し、最後に戻ってきてだーこちゃんと私を拾い、そのまま第2部会場へ向かいました。
 というのは、第2部に移る前に、だーこちゃんと私はホテルのチェックインを済ませようと思ったからでした。ホテルは名古屋駅近くではなく、むしろ伏見に近い場所でしたので、電車で名古屋駅まで行ってからそこまで走るより、クルマで直行した方が速いだろうと考えたわけでした。
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